酒のせいでいつもより高い体温と、それに伴って漂う蓮の匂いがたまらなく心地いい。
「ん、ぁ……」
ぐずぐずになったそこを、それでも指で柔らかくなぞる俺に涙を浮かべた蓮が困ったようにシーツを掴む。
「とら、」
「うん」
「も、」
「入れる?」
「……ん」
「いいのか、前」
「っ、さわ…」
硬くなりきらない前をやんわりと扱く手が止められ、力なく首を振る蓮の額にキスを落とす。
「飲みすぎ」
「ごめ、ん……なさ」
謝ることじゃないだろうと、指を抜いてコンドームをつける。ローションを足して膝を掴んだところで、その膝まで赤くなっていることに気づいた。腹も胸も赤い。顔が赤いのは羞恥心も手伝っているのだろうが。淡く紅潮した肌は息を飲むほど綺麗で、妖しく、触れると吸い付くような感触に目眩がした。
上手く力が抜け、柔らかく解されたそこに入り込めば、想像した以上の快感が生まれる。怖くなるほどピタリと重なって、絡まって解けなくなるような。繋ぎ目さえない、元々ひとつのものだったように溶け合う。
「うぅ……」
「苦しい?」
「んん、でも、きも…ち」
顔を背けて目を閉じた蓮は、まつ毛の隙間から溜まっていた涙を零した。自分でもやばいなと思うほど興奮して欲情しきった頭と体が、その体に点々と痕を残していく。肌が赤いせいでそこまで目立たないなと、都合のいい解釈をしながら。全身に。
「んっ、ん……とら、」
「れん」
「あっ、や…待って、まだ、んっ」
「わるい、むり」
「え、あっあ……ひ、ぅ……」
呆気なく吐精した自分のものを、余韻に浸る隙も与えず引きずり出してコンドームを付け直す。まだガチガチかよ、と笑いたくなったものの、それよりも興奮していて余裕が無い。胸を大きく揺らして涙を流しながら必死に空気を求める蓮の口を自分の唇で塞ぎ、もう一度体を繋げた。
それはもう夢中になって。シャワーを浴びたがっていた蓮だけど、正直こうなってしまえば浴びる時間までお預けにされなくて良かったなと思うほど乱れている。朝になってどれくらい覚えているのか、自分の頭が冷静になった時どれだけの罪悪感を抱くのか。
「とら、」
「ん」
「あっ、す……」
「なに」
「ふっ、んん…ぁっ、」
「れん」
「、まっ……」
「うん」
「待って、」
「待ってるだろ」
「そ、んな……ん…」
セックスの最中に交わされる戯言など形を持たないと思っていた。もちろん戯言だけであるとも思ってはいないけれど。一何時でも好きだとか愛しているとか幸せだとか、思っていても言えない言葉が、この行為の中では言葉に出来る。素直に、と言うよりは欲望のまま、の方が正しい感覚で。
「ふふ、」
好きだよ愛してるよ誕生日おめでとう、それからありがとう。そんな全てを込めた一言だった。
「待ってたよ」
「、え」
待ってたよ、ずっと。
何を、と視線で問うたことに気付いたのか、それとも自分の意思で付け加えたのか。蓮は熱を孕んだ声で「虎がうまれてくるのを待ってたんだよ」と呟き、濡れたまつ毛をなんとか持ち上げた。気を抜いたら意識を手放しそうなのだろう。繋がった場所がじわじわと熱く、俺の方こそ気を抜いたら持っていかれそうだというのに。
「それはずるいだろ」
「ふふ、でも、これは」
僕が先に生まれた特権だから。
「ずるいな」
「とら、」
「ん、」
「また一年、隣に居てもいいかな」
「聞くことじゃないだろ。それに、今日は…」
そうか、今日は。
「それが誕生日プレゼントなら、喜んで受け取るけど」
「ふふ、どうぞ」
もう一度、今度はゆるやかに、確かめるようにキスをしてゆっくりと腰を進めた。
蓮が眠りに落ちる頃、アルコールの匂いは既に消えていて、大した量は飲んでいなかったのかもしれないと悟る。朝になったら、どこまで覚えているのか。少し意地の悪い楽しみを胸に、自分も眠りについた。